ブランドのはじまり
私がMEMENTOSの運営を始めたのは、新型コロナウイルスが人々の生活に大きく影響を与えた2020年。
工芸品の作り手の役に立ちたい、日本の工芸品を多くの人に知ってもらいたい、そんな気持ちでこのブランドの立ち上げを決めましたが、実際には役に立つどころか、互いの接触を控えなければならないコロナ禍の影響で販売先の開拓や作り手への取材が難しい年となりました。
しかし、そんな年だったからこそ、ものづくりや産地が代々続いていることの「奇跡」や「儚さ」を肌で感じることとなりました。このようなタイミングで運営を始めたことには、大きな意味があったのではないかと感じています。
ブローチを身に付けること
工芸品は食卓の器やお部屋のインテリアとして生活に取り入れることもできますが、「身に付ける」ことには、「使う」こととは違った意味合いや楽しみ方があると感じます。
胸元に何かを付けることには、着飾る以外の意味が刷り込まれているのかもしれません。議員バッジや弁護士バッジは職業や立場を、SDGsのバッジを付ける公人はその考えの支持の表明など、強く情報発信をするツールとなっています。
数ある装飾品の中でも、胸元につけるブローチは、情報や主張を発信・共有できるという意味で、特別なもののように思います。
何をまとうのか
年齢を重ねるにつれ、何を身に付けるかに意味を持たせたいという気持ちが強くなり、自分が何をまとうかを選ぶ基準として、どんな人が、どんな背景で、どんな気持ちでつくっているものなのかも大事な要素になりました。
身に付けるアイテムのつくり手に対する思い入れが強いほど、「私、こんな素敵なつくり手を応援しています!」という主張も混ざっているのかもしれません。
まとい方によって、なぜか根拠のない自信が湧き上がってきたり、逆に1日が台無しになってしまったりするので、おしゃれって自分のためにするものだなとつくづく感じます。そういう意味では、自分自身だったり、つくり手だったり、人はいつも誰かの思いをまとっているのかもしれませんね。
まとい方と未来の自分
何をまとうかを考える時、自然と未来の自分を思い浮かべているような気がします。それは、まとい方は年齢とともに変化していくものだからかもしれません。
表面上のいわゆる「老化現象」に気を落とすこともありますが、自分の変化に合ったまとい方を考えることで、作り込んだ自分ではなく、自然体の自分を発見することができるのではないかと思います。
長い年月を経て受け継がれてきた伝統工芸品の素材や技術を用いて作られたブローチは、人間の変化に応じたまとい方に自然に寄り添ってくれるような気がしています。